2021年10月08日
音楽プロデューサーの名言から学ぶ! チームビルディング論
突然ですが、あなたにとって「理想の上司」とはどんな人でしょう?
「誰よりも仕事ができる人」
「部下のことを常に気にかけてくれる人」
「チーム全体の士気を高めてくれる人」
きっと、いろんなリーダー像があると思います。
そんな中で、あるオーディション番組をきっかけに「理想の上司」として話題になった音楽プロデューサーがいました。
世界で活躍する日本発のボーイズグループを目指し、 7人組ダンス&ボーカルユニット“BE:FIRST(ビーファースト)”を誕生させたSKY-HI(スカイハイ)。
そして、グローバル・ガールズグループ“NiziU”を生み出したオーディションの主催者、J.Y.Parkです。
SKY-HIはアイドルの顔ももちあわせた「二刀流」。
音楽グループAAA(トリプル・エー)のメンバーで、HIP HOPやJ-POP界の“カリスマラッパー”としても著名です。
2020年にはマネジメント&レーベル会社「BMSG」を設立し、代表を務めながら、プロデューサーとしても活躍の幅を広げています。
もう一人のJ.Y.Parkも、同様に実力派アーティストとして活躍。
TWICEや2PMなど、K-POP界に数々のスターを誕生させた敏腕音楽プロデューサーとしても有名です。
さて、「この人の部下になりたい!」という声がSNSでも話題になった音楽プロデューサーたち。
一体どんな言葉でチームをまとめていったのか‥‥‥!
この記事では、「チームビルディング」の視点から2人の言葉を解説。
あなたが今後、チームリーダーとして最高の力を発揮できるような「伝え方の技術」をお伝えします!
チームを成功へと導く伝え方とは
2人の名プロデューサーが、多くの視聴者の心を揺さぶったヒミツは、音楽的なセンスはもちろんのこと、その卓越した「言葉選び」にもありました。
リーダーの言葉は、チームのパフォーマンスに大きな影響をあたえます。
一人ひとりが最高の力を発揮し、チームの実力を伸ばすことができるかは、リーダーの声かけひとつによるところが大きいといっても、過言ではありません。
そして実は、2人の言葉には、私たちがビジネスシーンで日常的に応用できるポイントが盛りだくさん!
今回、私がご提案するポイントは、次の4つです。
② チームビジョン法
③ モチベーションキープ法
④ リスペクト法
このポイントを軸に、チームを成功へと導く伝え方のヒントを探っていきましょう!
ネガティブな評価を伝えるには?
ポジティブ・フィードバック法
ここで1つ、例題をだします。
あなたがチームのリーダーとして、部下を評価する立場だと仮定してご覧ください。
今期は前期より売り上げを達成できなかった。今のままではプラスの評価をつけられない。もっと努力が必要だ。
部下にこのような評価を下さなければならない時、あなたならどうしますか?
ではまず、よく言いがちなNG回答例をみていきましょう。
今期は目標の売り上げ金額を達成できなかったね。前期と比べると、新規案件の開拓が少ないのが要因だね。次はもっと頑張ろう
さて。どこがNGポイントだったのか、あなたにはわかりましたか?
おそらく多くの人は、NG回答例のように、まず指摘しなければいけない部分を明確にするでしょう。
大切なのは、そのあと‥‥‥!
厳しい評価をしなければいけない時、あなたはネガティブな指摘だけで終わっていませんか?
ここが、今回のポイント。
どういうことでしょうか?音楽プロデューサーの言葉を見てみましょう。
たとえば、歌唱審査にてオーディション参加者に歌のアドバイスをする際、SKY-HIはこう伝えていました。
「ラッパーとしても見るたびに少しずつ着実に良くなってる。次は感情だけでなくて、発声そのものを、上の方を使うだけじゃなくて下の方も使ってみたりとか、様々な声の出し方があると思うので、そういうのをいっぱい見れたら、素敵な部分がもっと増えると思います」
この言葉を、次のように分解してみます。
■言葉の分解 ■
ラッパーとして少しずつ良くなってる : ポジティブ
次はもっと発声方法を変えてほしい : ネガティブ
クリアできればもっと素敵な部分が増えると思う : ポジティブ
彼の言葉は、ネガティブな評価の前後に相手の良い部分を伝えることで、最終的にポジティブな伝え方になっています。
この伝え方は、評価内容を正しく相手に理解してもらうのにとても効果的だと言えます。
評価される側にとって、それがいかに的確なアドバイスであったとしても、どこかに救われる言葉がある場合とない場合とでは、受け止め方が大きく変わってきます。
この伝え方のようにポジティブな意見が含まれていると、前向きな気持ちで頑張ろうと思えてきますよね。
もう一人の名プロデューサー、J.Y.Parkはどのように評価していたのでしょう。
これは、合宿トレーニング2日目のダンスレベルテストでの場面。
彼は、前回の審査で「成長する姿が見られなければ、その時は落とすしかないと思っています」と厳しい評価をつけた参加者に対し、このような言葉を伝えました。
「あなたはダンスが苦手です。でもなぜ僕が笑っているかわかりますか?この前に比べると今日はかなり上手くなっていたからです。(中略)でもこの実力では歌手にはなれないです。他の人よりも何倍も頑張らないといけないです。頑張れますよね?」
■言葉の分解■
あなたはダンスが苦手です : ネガティブ
でもこの前に比べると、今日はかなり上手くなっている : ポジティブ
この実力では歌手にはなれない : ネガティブ
何倍も頑張らないといけない。頑張れますよね? : ポジティブ
彼の目には、指摘しなければいけないポイントがすぐに浮かびます。
ですが同時に、「いますぐに褒めたい!」というポイントもすぐに浮かんでいるのです。
なので、ネガティブもポジティブも同じ分量で伝えているのが分かります。
ネガティブな評価は、一歩誤ると「相手を否定するだけ」の伝え方になってしまいます。
達成できなかった部分に対して、次にどうやったらクリアできるかをポジティブに伝えることで、取り組む姿勢やマインドにも変化が現れてくるのです。
それでは、ここでおさらいです!
ネガティブな評価にポジティブ要素を加えながら、先ほどの例題を振り返ってみましょう。
今期は目標の売り上げ金額を達成できなかったね。前期と比べると、新規案件の開拓が少ないのが要因だね。次はもっと頑張ろう
毎日よくがんばってくれてるね。(ポジティブ)
前期と比べると、今期の売り上げは少し下がってしまったね。(ネガティブ)
でもその代わりに、既存顧客の売り上げは伸びているね。(ポジティブ)
来期は、さらに新規案件の開拓にも力を入れながら頑張っていこう!(ポジティブ)
目標を達成してもらうためには、今後の課題を提示することが重要です。
そのときはベスト回答例のように、クリアできている部分をまずポジティブに評価していきましょう。
そうすることで、自らの課題が本人にとって「言われたからやる」というマインドから、「成長のためにやる」というマインドに変化していくはずです。
ネガティブな評価を伝える時は、その前後にポジティブな評価をプラス。
まずは、これまでの努力をきちんと評価することが大切。
ワンチームとして、ビジョンを明確に。
チームビジョン法
自分の課題は何なのか。
チームとして成し遂げなければいけないことは何か。
問題点やビジョンを仲間と共有していくことは、チームビルディングにおいてとても大切です。
これは、ボーイズグループのオーディション『THE FIRST』の公式ホームページにつづられたSKY-HIの言葉です。
「クリエイティブファースト、クオリティファースト、アーティシズムファーストのチームを、共に作ろう。まだ見ぬ力を貸して欲しい」
SKY-HIが唱えたこの「3つのFIRST」という理念は、おそらくオーディション参加者にとって、耳慣れない言葉だったと思います。
しかし、彼は審査がはじまる前や評価を伝えるとき、そして、それぞれに順位をつけるときなど、あらゆる場面でこの言葉を用いながらビジョンを共有していました。
彼が合言葉のようにこの理念を伝えることで、参加者の口からも、自然とこの言葉が用いられるようになりました。
そして次第に、その理念をもとに、自らの課題について深く考えるようになっていました。
全員が同じビジョンを共有し、理解していたからこそ、彼らは審査が進むごとにより良いパフォーマンスを発揮できていたのではないかと思います。
常に理念を伝えていったSKY-HIと同じように、J.Y.Parkも、理念を明確にすることを欠かしませんでした。
これは、彼がオーディションの終盤、参加者を集めて講義したときのこと。
デビュー直前の彼女たちが、残り少ない期間でもっとも意識しなければいけないのは何か。彼は、次のように伝えました。
「本当に(世の中に)良い影響を与えたいなら、次の3つを必ず実行してください。
『真実』『誠実』『謙虚』
この3つがJYP(JYPエンターテイメント)が追求する価値です」
そう。彼が伝えたのは、小手先の技術ではなく、深層にある理念でした。
芸能界という厳しい世界でこれから活躍するためには、誰からも愛される人間でいなければなりません。
そのためには個人のスキルアップ以上に、人としての成長に必要な「3つのマインドセット」を理解し、身につけてほしいことを伝えています。
彼のこの言葉によって、参加者はより一層、プロとしての自覚を持ち始めていきました。
2人の音楽プロデューサーたちは、チームを導くリーダーとして、育成に必要な心構えやビジョンをこのように明確にしていました。
もちろん、言葉の影響力を持つリーダー自身が、チームの一員としてそれを体現していることが大切です。
そのうえで、リーダーはそのビジョンがどのような力を持つのかを繰り返し唱える。
つまり、具体的な「ビジョンの見える化」をすることで、はじめてその理念や概念がチームに浸透していくのです。
共通のビジョン=未来像をもてば、それを叶えるためのチームに近づいていく。
まさに「ワンフォーオール・オールフォーワン」の精神を持つことが、言葉の影響力をさらに高めていくのです。
リーダーはチームを導くためのゆるがない「マインドセット」を持ち、自らがそれを率先し、実行していくことが大切。
ワンフォーオール・オールフォーワンの精神を大切に。
モチベーションを維持するための伝え方
モチベーションキープ法
ビジネスの現場では、「モチベーション」という言葉がよく用いられますよね。
社員のモチベーションを高めることは、組織づくりにおいて忘れてはならないポイントです。
あらゆる場面で、部下のやる気を引き出す伝え方があれば、ぜひ押さえておきたいですよね。
今回はSKY-HIの伝え方をもとに、モチベーション維持の伝え方について考えていきます。
これから紹介するのは、「THE FIRST」のオーディションで30人の中から一気に15人に脱落してしまう場面で、SKY-HIが脱落者に向けて贈った言葉の数々です。
ここには、「モチベーションを維持するための言葉の成分」がたくさん詰まっています。
その一例を見ていきましょう。
SKY-HI
「(あなたの才能は)我々が一番驚いたうちの1つ。こんな歌を歌う子がいるんだって」
「あと何日かあったら、また違う結果になるじゃんと思っていて、それはすごく悩んだ」
「俺が2次審査で見た時の君と、今日パフォーマンスで見た君は別人でした。それを見られたのは、勝手にとても嬉しくなってしまった」
「クオリティが高いダンスと歌があったのは間違いないこと。素敵なパフォーマンスをありがとう」
モチベーションを維持するために、一体ここにどんなヒントがあったのでしょう。この伝え方を、次のように分解してみました。
【モチベーション成分の使い分け】
①発見 : 相手にしかない長所を見つけだし、それを驚きとして伝えたいとき。
②希望 : これまでの努力を理解し、相手に対する期待を伝えたいとき。
③喜び : 成長している姿が素直に嬉しい気持ちや、その感動を伝えたいとき。
④承認 : 相手にしかない強みや、よくできている部分を伝えたいとき。
大きな括りでみれば、「相手を褒める」という伝え方にブレはありません。ですが、その褒め方を分解していくと、このようなジャンルに分けて考えることができます。
このモチベーションの成分を軸にして、「例題」のようなシーンがあった場合、あなたならどんな言葉を伝えるか、一緒に考えていきましょう。
モチベーションアップの伝え方の種類を知っていれば、自然といろいろな言葉が浮かんでくるはずです!
■例題
部下が落ち込んでいる理由
自分の企画がなかなか通らない。何度やってもうまくいかない状況。
部下の心情
失敗ばかり。やる気が起きない。この仕事に向いていないのではないか。
先ほど分解した4つの成分を使って考えると、例えば上司として部下にこんな言い方ができるのではないでしょうか。
「君がそんなに根性があるなんて、知らなかった。この短期間でここまでやれる人って、なかなかいないと思う」
「そんな考え方があるんだって知れて、自分の勉強にもなった。次の企画でも、また一緒に考えてもらいたいと思えた」
「今回は残念な結果になってしまったけれど、資料の作り方とかプレゼンの仕方が格段にレベルアップしている姿が見れて、嬉しかった」
「君の発想力が面白いって言うことは紛れもない事実だから。これからそれが形になるように、自分も一緒に考える」
きっとこの他にも、いろいろなパターンがあると思います。
結果が振るわなかった痛みを理解しつつ、新たなモチベーションを生みだすきっかけを作るのは、リーダーの大切な役割です。
部下の調子の良し悪しを見極め、積極的なコミュニケーションを図ってみてください。
その何気ない会話が、本人にとっての忘れられない言葉や、モチベーションにつながっていくはずです。
「発見」「希望」「喜び」「承認」など、モチベーションを維持する伝え方のパターンを身につけよう。
何気ない会話など、積極的なコミュニケーションを忘れずに。
絶対的リーダーから伝えられる
リスペクト法
互いを認め合い、尊重していくこと。
「リスペクト」するという行為は、チームビルディングにおいて信頼関係を築くための重要なプロセスです。
年齢や立場を超えてリスペクトし合える関係は、自分の視野を広げるきっかけになります。
そして何より、チームの士気を上げる絶対的リーダーから発せられるリスペクトの言葉は、自分をさらに成長させる力へと変化していきます。
最後にご紹介するのは、J.Y.Parkの言葉。
これは、オーディションの最終審査でデビューメンバーを発表する際に伝えた言葉です。
「発表の前に、言いたいことがあります。皆さん全員、1万人の中から12人に選ばれるぐらい、特別で、頑張ったということを、知っていてほしいです」
彼はオーディションを通し、終始一貫して参加者へのリスペクトを欠かしませんでした。
この他の場面でも、彼は一人ひとりが「特別である」ということを伝え続けていました。
実はこの伝え方。「特別である」という表現をさらに実感させるポイントが含まれているんです。
「1万人の中から12人に選ばれるぐらい」というこの言葉。
このように具体的な数字を入れると、説得力が増し、伝える力がさらに強くなっていきます。
書籍『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)では、この伝え方の技術を「ナンバー法」と呼んでいます。
たとえばこの言葉、
「たくさんの応募者の中からここに残れるぐらい〜」
これでも十分意味は伝わるのですが、
「1万人の中から12人に選ばれるぐらい〜」
こちらの方が、どれほどの人数から選ばれ、高く評価されてきたのかがより伝わり、認められている実感がわいてきますよね。
こうした「強い言葉を作る技術」を盛り込みながら、結果にかかわらず、目標達成のために頑張ってきた行為を評価していくこと。これがリーダーには求められます。
もしもあなたがリーダーとして信頼されたい、認められたいと感じるならば、まずは自分自身が周りの良い部分を見つけ、声に出して伝えてみてください。
チームビルディングの最後の要は、「リスペクト」。互いの意見や立場を尊重することで、信頼関係を築いていこう。
「ナンバー法」のように、具体的な数字や内容を交えて相手の気持ちを尊重することで、より記憶に残る言葉になる。
リーダーとしてチームを率いる立場だからこそ、まずは周りの良いところを自分から見つけ、チームを明るくしていくことが大切。
まとめ
芸能界とビジネスの現場では、もちろん仕事の進め方や環境にも違いがあります。
しかし、チームとしてより良いパフォーマンスを発揮していくための伝え方においては、共通する部分や、参考になる点が多いのです。
まずは、これまでのちょっとしたアドバイスやコミュニケーションを見直し、あなたにしか伝えられないベストな方法を見つけてみてください。
人を成長させる伝え方をどんどん磨いて、これまでにないチームビルディングをいっしょに目指しましょう!
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- この記事を書いた人
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「伝え方研究所」研究員/コピーライター
Kei Hosokawa明治大学文学部卒業。事業会社の宣伝広報やプロダクションを経て、現在はコピーライター・ライターとして活動中。Metro Ad Creative Award 2018 協賛スポンサー賞を受賞。伝え方ってほんとうに難しい。でも、「伝え方で運命や人生は本気で変わる!」と、胸を張って言えるように、日々コトバと向き合っています。
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