2021年09月16日
名古屋市長を例にひも解く!上手な謝罪の「3原則」とは?
河村たかし名古屋市長が「謝り方3原則」を意識していたら、謝罪会見の印象は正反対だったかも?!
9月に新型コロナの感染が確認され、ふたたび注目された河村市長。
東京五輪ソフトボール日本代表の後藤希友選手の目の前で、突然、金メダルをかんだ映像は、多くの人の反感をかいました。
その後、謝罪会見を3度も開きましたが、世の人の感情を逆なでし、かえって火に油を注ぐ結果に……。
海外でも「金メダルを“菌”メダルに変えた市長」(ロイター通信)などと報じられ、厳しい世論にさらされ続けています。
では、果たしてどのように謝罪していたらよかったのでしょうか?
何かを変えることができていたでしょうか?
市長が「形だけの謝罪」ではなく、「謝り方3原則」を徹底できていたら、人々の感情をこんなにも逆なですることはなかったでしょう。そして、もっと早く、鎮火できていたのではと感じます。
もちろん、ミスやトラブルは、どんなに優秀な人にもつきものです。
問題は、その後の対応のあり方にかかっています。謝罪ひとつで、印象をさらに悪くすることもあれば、逆に、「誠実な人」という印象をあたえることもできるからです。
だからこそ、「相手に響く謝罪」がとても重要。河村市長のケースを反面教師に、その方法をしっかりと学んでいきましょう!
まずはじめに結論からお伝えしますと、謝り方には、3つの原則があると私は考えています。
①まずはスピーディーに非を認める
②視覚・聴覚的な部分を十分に意識して謝罪する
③反論せず真摯に対応する
思わず腰が引けてしまいそうな謝罪シーン。
でも、この3つのポイントさえつかめば、相手の怒りや憎しみというマイナスの感情をグッと和らげることができます。
「菌メダル事件」とは
市長の謝り方を分析する前に、まずは、「菌メダル事件」の経緯を簡単にふり返ります。
【8月4日】金メダルかみ 批判相次ぐ
河村市長は、ソフトボール日本代表の後藤投手と面会。
首にかけられた金メダルを、突然、口に入れて噛みました。
歯とメダルが当たる「カチッ」という音が会場に響き、そのままメダルを拭くことなく、後藤投手に返却。
名古屋市役所に抗議や苦情が殺到し、後藤投手が所属するトヨタ自動車は「不適切かつあるまじき行為。責任あるリーダーとしての行動を切に願う」と厳しいコメントを発表しました。
【8月5日】トヨタ自動車が抗議、最初の謝罪
一夜明け、トヨタ自動車が市に抗議文を提出。市側はトヨタに謝罪文を届けました。
この日の囲み取材で市長は「極めて不適切な行為であったと猛省すべきと痛感」と手元のペーパーを読み上げました。
また、質疑応答で「(金メダルは)宝物だったわけで、まぁ配慮が足らず、すみませんと、申し訳ないねと、いうことですわ」と謝罪しました。
しかし、批判は過熱。競泳金メダリストの北島康介選手らアスリートからも否定的なコメントが相次ぎました。
【8月12日】2度目の謝罪
この日の記者会見で、市長は「ゴールドメダリストの宝物を傷つけたのは誠に申し訳ない」と改めて謝罪しました。
IOCが金メダルを交換する運びとなれば、自腹を切るとの発言もありました。
しかし、会見途中に「配慮も足らんかった。謝るしかしょうがないですよ」と発言し、投げやりな態度を記者から批判される一幕も。
翌13日までに、市役所へ1万3600件余りにのぼる批判の声が寄せられました。
【8月15日】聖火の採火イベント欠席
市長は聖火行事への参加を見送りました。市は、批判や苦情が殺到していることから、「混乱が起きかねないため」と説明しています。
【8月16日】3度目の謝罪
改めて謝罪し、13日にハラスメント講習を受けたことを報告。
また、給料を3か月間無給にする処分を自分に科すことを表明しました。
【8月23日】市職員へ自筆の謝罪文
市役所への苦情対応におわれた職員に対して、自筆の謝罪文を出しました。
「謝り方3原則」を完全無視した河村たかし名古屋市長
さて、「菌メダル事件」の経緯を振りかえりました。
続いて「何がいけなかったのか」を分析していきます!
ポイントは、冒頭でもお伝えした「謝り方3原則」です。
①まずはスピーディーに非を認める
②視覚・聴覚的な部分を十分に意識して謝罪する
③反論せず真摯に対応する
この3つのポイントを、河村市長の事例と一緒に、一つずつひも解いていきましょう!
第一印象の挽回は難しい
事件翌日、8月5日の最初の謝罪。
「かんだと言われればかんだ」
「ぐっと歯が食い込むような噛み方はしていない」
「あのときは非常にフレンドリーな感じだった」
市長のコトバの端々に見られたのは「言い訳」でした。
また、手元のペーパーに目を落としたまま、つかえながらの棒読み。
さらに、「……ということでございます」と締めくくり、「他人が書いた文章だ」と言わんばかり。「自分は悪いことをしたとは思っていない」という姿勢にも映ってしまいました。
批判は収まるどころか拡大し、1週間後に、「行き過ぎた発言がありまして……」とふたたび陳謝する事態に。
メダル交換にかかる費用も自分で負担すると説明し、事態の収束を図りましたが、「時すでに遅し」。
この間、メダルにかぶりついた画像と、謝罪会見の模様が繰り返し報じられました。
たしかに、4期続けて市長をつとめる河村氏は、政治手腕には定評があるのかもしれません。
しかし、今回初めて彼を知った人々には、繰り返される報道を通して、「市長の第一印象=不謹慎」とインプットされ、定着します。すると、後でくつがえすことは難しくなります。
◇心理学的に分析
他者に対して、最初に抱いたイメージを長期的に持ち続けやすい性質
よく、「第一印象が大切」というコトバを耳にしませんか?
それは、人には、一度良いイメージを持つと良い情報ばかりが目に入り、逆に一度悪いイメージを持つと悪い情報ばかりが目に入るようになる性質があるからです。
「あるある!」と思い浮かぶ場面、ないでしょうか?
約束の時間に遅れた相手を「ルーズな人だな」と感じる。その後に届いたメールでは変換ミスがちらほら。本来はきちんとした人が、たまたま遅刻し、変換ミスをしただけかもしれません。
でも、あなたは「ルーズな人は、メールもきちんと打てないのだな。きっと仕事上も信頼できないだろう」と考える。
つまり、一度悪いイメージをもつと、その後も悪い方へ印象がつくられやすいということです。
第一印象は数秒から数分で形作られ、固定されるとも言われます。
それほど短い時間で、その後の人間関係が大きく左右されるなんて、とても怖いことですよね。
ミスやトラブルが起きた時、対応が遅れてしまう理由は、多々あるでしょう。
状況を十分に把握するため。より良い対応を練るため。バツの悪さなど……。
しかし、明暗を分けるのは、真摯な謝罪と初動の速さ。まずは、これに尽きます。
負のスパイラルに陥る前に、まずはスピーディーに非を認めることを心がけましょう。
視覚・聴覚ノイズが多いと、コトバが届きにくい
河村市長が会見の場を設けたのは良かったのですが、ここが2つ目の「もったいないポイント」でした。
コトバでは謝っていても、目や耳からはいる謝罪の態度が、お粗末だったことです。
市長が見せた態度と、受ける印象を表にまとめてみました。
「どうすればよかったのか」を例示した改善策もあわせてご覧ください。
「百聞は一見に如かず」と言う通り、人は目から情報を受け取りやすいもの。このため、視覚情報を真っ先に整えなければ、お詫びのコトバがどれだけ素晴らしくても、相手に伝わりにくくなります。
どういうことかと言うと、名古屋市長が初めの会見で見せたように、ふてくされたような横柄な態度や無表情で謝罪しても、肝心のコトバと謝意が十分に伝わりません。
なぜなら、初対面の相手は、市長の真意を、おもに視覚からの情報で判断するからです。
◇心理学的に分析 : メラビアンの法則
話し相手のコトバと態度に矛盾が生じる時、人は、視覚・聴覚・コトバ(話の内容)の中で、どの情報を重視するか。
アメリカの心理学者アルバート・メラビアンは、研究で、その比率をこのように発表しました。
これによると、なんと、コトバ以外の要素が90%以上を占めています!
たとえば、あなたが、相手から納得のいかない表情で称賛されたとき、相手の真意をどう受け止めますか?
多くの人は「表情」を優先して相手の気持ちを判断します。
これを「メラビアンの法則」と言います。
ですから、コトバ以外の要素を第一に整えることが、大切なポイントです。
たとえば、服装や髪形を清潔に保つ。相手がしっかり聞き取れるようメリハリをつけ、ハキハキ話す。
もちろん、コトバが空虚では元も子もないですが、伝えるコトバをしっかりと考えた上で、見た目や話し方にまで気を配れば、相手に好印象を与えることができます。あなたのコトバは、もっともっと響く可能性を秘めているのです!
相手が恐縮するレベルの謝罪が理想
謝罪のポイント3点目。反論せず、真摯に対応するということです。
この部分も、せっかくの会見が台なしになった残念なポイントでした。
市長の謝り方をふりかえってみましょう。
(市長の謝り方) 「一応、心を込めて頭を下げさせていただきます」と言って、頭を10秒ほど下げる
(受け取る印象) 「一応」というコトバから、仕方なく謝罪している印象。
(市長の謝り方) 「……でしょ?!」「……しかないでしょ?!」等
(受け取る印象) 切り口上で、横柄に響く。
(市長の謝り方) 「……けど」「迷惑をかけているのであれば」「……だったが」等
(受け取る印象) 反論、ふてくされ、言い訳に聞こえる。潔さがない。
言うまでもなく謝罪の目的は、自身の名誉回復のためではなく、相手に誠意を届け、受け取ってもらうことです。
ミスやトラブルが起きたとき、「こんなつもりではなかった」という思いはつきもの。
それでも、グッと飲み込んで、真摯に謝ることが大切です。
◇心理学的に分析
予期しない事態が起こった時に、その状況を正常だと思い込み軽く見てしまうこと
トラブルやクレーム時に、つい「たいしたことないだろう」と捉えてしまう心理を表します。
市長にも、もしかすると、「自分はたいして責められることをしていない」という正常性バイアスが働いていた可能性があります。
人はだれでも、こうした「正常性バイアス」にとらわれてしまうリスクがあります。
だからこそ、それを十分に意識して、そもそも自身の想定と、相手の不満や不安、憤りの実際のレベルには隔たりがあるという前提に立ちましょう。
例えば、あなたが10分待たされた時。相手が息を切らして駆けつけて、「貴重な時間を本当に悪かった!」と、まるで30分以上待たせてしまったかのように謝られたら……。
「そこまで謝ってくれるなら、許そうか」と心に響きませんか?
謝罪の場では、自分の想定以上の態度で対応するようにしましょう!
大切なコトバが相手に届き伝わりやすいように
「謝り方3原則」を見てきました。
まずは初動を早く、丁寧に。
そして、髪型などの外見、服装、姿勢、アイコンタクトや表情、声の大小やトーンなど、伝える内容以外の視覚と聴覚の情報までしっかり整え、「伝える準備」をすることで、相手に与える印象は別物になります。
河村市長が、最初から清潔感あふれるシンプルなスーツ姿で、沈痛な表情で、ふてくされずに会見をしていたら。
印象は、せめて「普通」に留まったかもしれません。
まずは普段から、他者の目線を意識しましょう。
外見、姿勢、発する声のトーン、口癖、身体の癖などを見直し、整え、どんどん磨きましょう!
そして、謝罪が必要な「もしも」の時には、一挙手一投足おろそかにしない位の心意気で、とにかくスピーディーに臨むこと。
コトバと「非コトバ要素」の両方から、誠意を伝え、良い関係を再構築しましょう。
謝罪は、誰にとっても難しく辛いものです。
一方で、相手が改善して謝罪したなら、70.4%の人がその人を許すというアンケート結果もあります。(出典:日本トレンドリサーチ、https://trend-research.jp/7899/)
トラブル時には、仕事への覚悟や姿勢、人間性が平時以上に表れるもの。
だからこそ、相手に誠意や反省が届けば、より強い信頼関係を築くことだってできるのです!
謝罪のゴール。それは、相手に誠意の伝わるお詫びをし、気持ちを和らげ、今後のお付き合いを許してもらうこと。
そして、自分は同じミスを繰り返さないこと、です。
謝り方3原則を発揮する「大前提」
最後に、謝り方3原則を発揮する「大前提」をひとつだけ。
それは、相手の頭の中を想像することです。
河村市長は、自治体の長として、世の人の頭の中を想像し、伝える力が、仕事上もっともっと必要だったのではないでしょうか。
そして、まず「謝り方の3原則」で説明した「型」をしっかり押さえておくことが不可欠でした。
あなたが伝えるコトバ。
それは、謝罪の場にかぎらず、常に相手への贈りものだということ。
ぜひ覚えておきたいものですね。
まとめ
謝罪のポイントをおさらいしましょう!
①まずはスピーディーに非を認める
②視覚・聴覚的な部分を十分に意識して謝罪する
③反論せず真摯に対応する
伝え方のコツは学べます。
もちろん、思わず血の気が引くような謝罪シーンであっても、です。
そして、すべてに共通する大前提は、相手の気持ちを想像して行動すること。
備えあれば安心です。ぜひ、あなたも、今、この瞬間から伝え方を磨きましょう!
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「伝え方研究所」研究員/元・丸の内OLライター
慧慶應義塾大学法学部卒業。 東京海上日動火災保険・営業部門勤務、企業法務事務所・弁護士秘書職を経て、現在、講師としても活動。 思わず取入れたくなる「コツ」を、コーチング理論や心理学、ビジネスマナー等を織り交ぜながらお届けすべく、「伝え方」を研究中。 好きなコトバは「一隅を照らす」。
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