王者は「コトバ」で作られる! 車いすテニス国枝慎吾選手に学ぶメンタルハック

王者は「コトバ」で作られる!  車いすテニス国枝慎吾選手に学ぶメンタルハック

 

 

相手のショットがネットにかかると、2大会ぶりの金メダルをきめた国枝慎吾選手はこぶしを握り、目頭をおさえました。

 

その右手には、かたく乾いたマメが———。

 

往年の努力と強さを象徴するかのようでした。

 

東京パラリンピック、車いすテニス決勝のラストシーンです。

 

ところが、この後、国枝選手の口から出たのは意外なコトバでした。

 

「(金メダルは)99.99%信じられないことだった」

 

「真の王者」とも呼ばれた国枝選手は、陰で、もがき苦しんでいたのです。

 

 

常に付きまとうケガだけでなく、「ボールが飛んでくるのが怖い」と思うまでに精神が追い詰められたことも。

 

引退を考えたことも、一度ではなかったと明かしています。

 

そんな険しい壁をこえて、世界王者の座についた国枝選手。

 

いったい、どうやって苦境を乗りこえたのでしょうか?

 

カギは、誰にも負けない「コトバへの執着」にありました。

 

 

この記事では、逆境を乗りこえたポイントを3つにわけて解説。

 

国枝選手のコトバを通じ、ビジネスや人生の大事な場面で役に立つメンタルハックをお伝えします!

 

<国枝選手の3つのコトバ>
「オレは最強だ!」 ~アファメーション~
「自分を評価し、自分に挑戦する」 ~客観力~
「負けた数が、自分を成長させる数」 ~吸収力~

 

仕事も人生も、つねに順風満帆とはかぎりません。

もし、暗礁にのりあげ、途方にくれてしまったら……。

 

この3つのコトバが羅針盤となり、ふたたび舵を取る力をくれるはずです!

 

 

 

まずは王者の「強さ」をふり返り

国枝選手が車いすテニスに出会ったのは11歳。
小学校6年生のときでした。

 

2年前にせき髄に腫瘍ができて下半身まひとなり、母のすすめで始めたのです。

 

当時、アジアは「男子テニス不毛の地」

 

国枝選手は高校で海外遠征し、世界のレベルの高さにショックを受けます。

 

それを機に、競技に本格的にのめり込むようになると、めきめきと頭角をあらわし、2006年には、世界の頂点にのぼりつめます。

 

当時22歳。アジア人初の快挙でした。

 

以降、つぎつぎと金字塔をうちたてます。

 

■年間4大大会をすべて制覇……2007年に、車いすテニスツアーの当時の4大メジャーを年間ですべて制覇。史上はじめてのことでした。
■107連勝……2007年からシングルスで勝ち続け、ギネスブック記録に。
■パラ大会シングルスで金……2008年の北京と2012年のロンドンで金メダル。

 

あのフェデラー選手の口からも「日本にはクニエダがいるじゃないか」と名前が出るほど、今では圧倒的なポジションを確立しています。

 

 

 

 

「自分史上最強」からの低迷

東京パラリンピックが予定されていた2020年。

 

国枝選手は、絶好調でした。
この年の冬にひらかれた全豪オープンで優勝し、「自分史上いちばん強い」と胸を張るほどでした。

 

しかし、直後に1年延期が決定
それが、長い、長い、挫折と苦悩のはじまりでした。

 

大会にコンディションをピタリと合わせる計画がずれたダメージは、想像以上に大きかったのです。

 

30代後半の年齢はさることながら、「勝って当たり前」の重圧も、心にのしかかりました。

 

7月のウィンブルドン選手権では、めずらしく初戦敗退。

 

ベストパフォーマンスを出せない不安から、眠れない日々が続き、睡眠薬に手を出すこともありました。

 

国枝選手のコトバです。

 

「負けるたびに何かを変えたことで、糸が絡まってしまい、何が正解かがわからなくなってしまった」
「今回は、金メダルは無理なのではと思っていた」

 

 

どうやって持ち直したか?!

東京パラ大会の延期で挫折を味わった国枝選手。

 

いったい、どうやって持ち直したのでしょうか?

 

彼の印象的なコトバとともに、3つのポイントから解説します。

 

「オレは最強だ!」 ~アファメーション~
「自分を評価し、自分に挑戦する」 ~客観力~
「負けた数が、自分を成長させる数」 ~吸収力~

 

①「オレは最強だ!」 ~アファメーション~

 

国枝選手の有名なコトバ、「オレは最強だ!」

 

鏡の前で、時にこの言葉をさけび、勝利のガッツポーズをする自分を思い描く。
試合前に必ず行うそうです。

 

弱気な時のサーブは、ダブルフォルトがよぎり失敗しがち。

 

そんな時こそ、「オレは最強だ!」と声に出す。

 

「そうやって打つと、“オレは最強だ!サーブ”になるんですよ」 (国枝選手)

 

ポジティブに考えるだけで、実際にプレーが良くなる。

 

強さの秘訣は、自己暗示をかけることにあったのです。

 

「今回はそれプラス、
“I can do it!(おれはできる)”
“I know what to do!(やるべきことはわかっている)”
という
キーワードを、毎日鏡の中の自分に言い聞かせて、この決勝戦に臨みました」

 

試合が3時間もの長丁場になることもあります。
いやでも、くじけそうな心が出てきてしまう。

 

でも、最後には、相手にねばり勝ちする。

 

そのカギは「信じ込めるコトバ」にあったと、国枝選手はふりかえります。

シールに書き、いつでも目に入るよう、ラケットに貼っていたそうです。

 

「重圧の中、自分自身のプレーをどう出し切るかをパラリンピックでは求められるので、この言葉に支えられました」

 

 

「オレは最強だ!」誕生秘話

さて、この有名な「オレは最強だ!」のコトバは、どのように生まれたのでしょう?

 

きっかけは、メンタルコーチのトレーニングでした。

 

2006年、国枝選手は世界10位。

 

頂点との差をうめるには、技術だけでなくメンタルの強化が欠かせないと感じていました。

 

メンタルコーチに「僕のテニスを見てナンバーワンになれる可能性がありますか?」と尋ねると、「あなたはどう思っているの?」と逆質問。

 

国枝選手が「ナンバーワンになりたい」と答えると……。

 

「“なりたい”じゃなくて
自分がナンバーワンだ”
断言するトレーニングから始めましょう」

 

とアドバイスされます。

 

「オレは最強だ!」のフレーズは、ここから生まれました。

 

 

 

朝、鏡に映る自分に「オレは最強だ!」と言い聞かせ、潜在意識に刷り込む日々がスタートすると、その年の大会を次々と制覇。

 

メンタルコーチとの出会いからわずか9か月で、世界1位へとかけ上がったのです。

 

「(勝ち続けるたびに)オレは最強だって思えるようになって、よりその力を込めてショットを打てる好循環になっていきました」 (国枝選手)

 

試合前には、Mr.Children「Tomorrow never knows」やGLAY「SOUL LOVE」といった勝負曲を聴きながら、「オレは最強だ!」と何度もつぶやくそうです。

 

 

 

なりたい自分をめざす「アファメーション」

なりたい自分になるために、肯定的に断言する自己暗示のことを、「アファメーション」といいます。

 

「自分はうまくやれる」と言い聞かせ、潜在意識に訴えかけることで、自分自身をのぞましい方向へとみちびく心理的な作用です。

 

たとえば……

 

「ワンピース」で主人公ルフィがさけぶ「海賊王に俺はなる!」
「キングダム」で主人公・信がさけぶ「天下の大将軍になる!」
サッカーの本田圭佑選手は、小学校の卒業文集で、
「僕は大人になったら、サッカー選手になりたいと言うよりなる」
「ヨーロッパのセリエAに入団します。そして、レギュラーになって、10番で活躍します」と断言。
これが現実になったのは、みなさんご存知の通りです。

 

 

王者からの学び

アメリカの心理学研究で、

「人間ひとりが1日に思考する回数は約6万
95%は昨日と同じことを考え、そのうち8割はネガティブな思考をしている

との説があります。

 

だとすると、強いコトバを発するよう日ごろから意識し、ラケットに貼って視覚化する国枝選手の工夫は、ネガティブ思考を断ち切るうえでとても有効と考えられます。

出典 : 「めんどくさい」を引き起こすヤバい思考5つ | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

 

 

応用できるのは、プロスポーツ選手にかぎりません。

ビジネスでも、転職や異動、強いストレスのかかる場面で、迷い、弱ることもありますよね。

 

そんな時、特効薬となる「強いコトバ」を自分へ伝えることを意識しましょう。

好循環のきっかけをつかめるかもしれません!

 

 

 

②「自分を評価し、自分に挑戦する」 ~客観力~

国枝選手には、もうひとつの習慣があります。
日々、きづいたことをメモすることです。

 

「反省、取り組むべき課題、その課題を克服して得たことをメモ。『現状』と『課題』を記録し続ければ、『今、自分に必要なこと』が常に明確になり、成長への近道になる

 

あるページには、「残り1万5000球」の文字。
「ある技術をマスターするには、30000球打たなければならない」との説に基づき、練習で打った数を書き記したものです。

 

ノートにメモすることで、「今、自分に必要なこと」がはっきりと分かるのです。

 

 

さらに、過去のメモを見返すことで、つぎに進むべき道がみえてくることもあります。

東京パラ大会までの1年、国枝選手は勝ちきれない日々が続きました。

 

復活のヒントになったのが、過去のノートでした。
何年間ものノートをすべて見返しては、トライ・アンド・エラーをくり返したのです。

 

 

復活の兆しがみえたのは、大会のわずか1週間前。

 

国枝選手の代名詞ともいわれるバックハンドを、前年までのスタイルに戻す決断をしたのです。
試行錯誤をへたからこそ見えたあたらしい境地でした。

 

 

ノートに書き留める大切さにまつわるコトバ

他にも、ノートにまつわる名言があります。
ご紹介しましょう!

 

「気づいたことを書き留めると、
自分が今何をすべきかが見えてきて、
自分自身と対話しながら
練習することができます。
それに試合前に読み返すと、
自分なりに成長していることが実感できるんですよ」
「対戦相手に挑む方が
『勝ち負け=結果』がはっきりするので、
モチベーションにつながりやすい面はあります。
でも実際、試合後に
『昨日よりいいプレーができたか』
『あきらめなかったか』など、
自分を評価する習慣をつけて自分に挑戦してみると、
冷静に結果を見つめることができ、
次の課題に取り組めます。
すると、気持ちの浮き沈みの波が少なくなりました」

出典:国枝慎吾の名言 51 (the-greats.com)

 

 

王者からの学び : 「書く」効果は、良いことづくし!

「書く」ことには、自分の体調や精神の状態をただしくつかむ力がアップしたり、ストレスを発散させたりする効果があるそうです。

 

頭の中で考えるだけでは、どうしても主観的になりがちだったり、あれこれ絡まり散らかった状態だったり。

 

そんなときは、書くことで「見える化」するのが有効です。

 

とくに、“ポジティブな日記”を書くことをオススメします。

ポジティブなできごとを書く習慣がある人は、「幸福度」が高くなるからです。

このことは、アメリカのブリガムヤング大学の調査で明らかになりました。

 

2つのグループに日記を4週間つけてもらう実験で、書く内容をつぎのように区別しました。

Aグループ うれしかったこと、ポジティブな出来事を書く
Bグループ 特に限定せず、その日の出来事を自由に書く

その結果、自由に書くBグループより、ポジティブな出来事に目を向けたAグループの方が、より幸福度が高かったのです。

 

ポジティブなできごとを書き出すことで、脳は、その経験をあらためて満喫すると言われています。

 

毎晩、1行でもポジティブなできごとを日記に書く。それだけで、ストレスが軽減されるかもしれません。

 

さらに、書く内容は、過去の出来事だけでなく、未来のことでも良いのです。

 

夢や目標を書いて、繰り返し見続けることで、脳に強く刻みこまれ、達成にむけた行動をとりやすくなります。

 

夢に、どんどん近づくのです。

 

書くことは、良いことづくし。ぜひ、生活に取り入れたいですね。

 

 

 

「負けた数が、自分を成長させる数」 ~吸収力~

世界トップアスリートともなれば、いままでの成功体験にとらわれがちな面もあるでしょう。

 

しかし、国枝選手の最大の強みは、変化をおそれない柔軟さにあります。

 

「車いすだからここまでしかできない」という思い込みを取り払い、
「健常者や格下の選手のプレーから盗めるものはないか」と常に考えて取り組むことが、
今の自分を超えるために必要な要素。

 

周囲はどんどんレベルアップする。
そんな中で、現状をキープするだけでは相対的に落ちてしまう。

 

国枝選手はそう考え、変化をおそれないことが重要だと説いています。

 

柔軟さの根底にあるのは、成長への貪欲さ。
自分に足りないものを取り込む「吸収力」です。

 

それを象徴するのが、次のコトバです。

 

「負けた数が、自分を成長させる数」
負けることが、すごくモチベーションを駆り立てる。
負けるたびに、気付きがあり、その負けをすごく大事にして、どう料理して次に活かすか。
その作業に最近はめちゃくちゃ面白さを感じているところでもある。
負けて過ごした方が、何をするべきか、というのが明確に見えているので、練習の効率も上がるし、クオリティも上がる」

 

一般的に「負け」はこころに堪えるものです。

ビジネスでも、「ここぞ」のプレゼンで負ければ、しばらく落ち込んでしまう人も少なくないでしょう。

 

でも、「それが成長につながる」と考えを転換することで、ポジティブでいられる時間も長くなりそうです。

 

同じやり方や成功体験にとらわれず、「負けも栄養」として吸収することが大切!

変化を恐れず、受け止め、周りから常に学びながら「進化」しましょう。

 

 

そして、チャレンジャーから再び王者の座へ

国枝選手が、東京パラ大会延期の1年に強く意識した3つのマインドセットをみてきました。

 

①「オレは最強だ!」 ~アファメーション~
②「自分を評価し、自分に挑戦する」 ~客観力~
③「負けた数が、自分を成長させる数」 ~吸収力~

 

「(金メダルは)99.99%信じられないことだった」
という予想に反し、「0.01%の希望」は現実になりました。

 

優勝がきまった直後、目頭をおさえて涙した国枝選手。

 

その後も、スタッフにハグされて涙し、日の丸につつまれて涙しました。

 

「一生分泣いたし、枯れました」

 

その涙の意味を会見で問われて、こう明かしています。

重圧があればあるほど勝利の味は格別なものになると常々思っている。
重圧があるからこそ勝利の瞬間に思いっきり泣ける。
パラリンピックの重圧をひしひしと感じた」
「何度も“自分はできるんだ、俺は最強だ”と言いきかせますけど、心の奥底では疑う自分がいた。その戦いはありました。そこに打ち勝った」

 

 

もう一つの力。~誰かのために~

ここで、「もう一つの力」にも触れましょう。

 

パラリンピック大会には、競技の技術面のほかにも、独特の難しさがあります。

 

障害のレベルや感覚は人それぞれで、ほとんどお手本がいないという難しさ。

 

競技生活を続ける上での環境の未整備や、資金調達の難しさです。

 

海外への遠征には年間400万円近い費用がかかったり、車いすテニスの練習場や指導スタッフも限られたり。

 

 

そんななか、国枝選手は、車いすテニス界をひっぱるフロントランナーとして、こうした技術外の分野でも、存在感を発揮しつづけています。

 

車いすテニスの認知度をあげ、次世代が活躍する道を拓いていくために、力になりたい。

 

最後に、彼のそんな使命感がかいまみえたコトバたちをご紹介します!

 

「いい夢が与えられたのでは。よりプロのパラ選手を目指す子供が出てくるのを願う」
(所属先であるユニクロより、東京パラリンピックでの金メダル獲得に対して、1億円の特別報奨に際して)
「車いすテニスって面白いと感じてもらいたい。だから、勝つだけでなく、魅せながら勝つテニスをしていきたい」
「自分をきっかけに車いすテニスに興味をもってくれたら。
そこから、別の選手のファンになったっていいんです。
車いすテニスのファンになってくれたら」
「共生社会とか多様性とか、そんな言葉がいらなくなることが一番の理想」

 

自分のためだけでは挫けそうになることも、誰かのため、未来のためを思えば、ココロを燃やすことができる……そんな素敵な魅力に溢れたコトバです。

 

 

まとめ

あらためて、3つのポイントを国枝選手のコトバとふり返りましょう。

 

「オレは最強だ!」 ~アファメーション~
「自分を評価し、自分に挑戦する」 ~客観力~
「負けた数が、自分を成長させる数」 ~吸収力~

 

強いコトバで自身のココロをふるいたたせる。
その姿勢は、わたしたちにとっても、大きな学びになるはずです。

 

キャリアという航海の途中、思うように舵が取れず迷い弱り、挫けそうになることもありますよね。
そんな時には、この3つのポイントを思い出してみましょう。

 

国枝選手の考え方は、灯台のような存在として私たちをみちびき、再び帆を張る力をあたえてくれるはずです。

 

「体さえ無事であればまた進めるし、
進めるならばどんどんチャレンジしていけるよね」 (国枝選手)

 

国枝選手は、パリ2024大会にも「やれない距離感ではないですね」と意欲を示しています。

 

強いコトバは、人生をきりひらくカギになる。

自分のポテンシャルを信じ、ひきだす力になる。

 

ぜひ、あなたも、自分のこころをふるいたたせるあなただけの「強いコトバ」を作ってみては?

きっと、前に歩みつづける力をあたえてくれますよ。

 

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