2024年04月16日
【海外のコミュニケーション教育】発見!異文化コミュニケーション#011
こんにちは!
オーストラリアで生活している、
伝え方研究所の杉です。
この連載では、海外でみつけた
伝え方や文化のちがいをつづっています。
今回は、
「海外のコミュニケーション教育」
をご紹介します。
オーストラリア生まれ、
オーストラリア育ちの若者たちと
会話をするなかで、気づいたことがあります。
それは、彼らが
「自分の思いや意見を伝えるのは、
他人の意見を尊重することと
同じくらい大切なことだ」
というゆるぎのない自信をもっていること。
日本ではときどき
相手に失礼だ」
と捉えられるケースがありますが、
オーストラリア人の友だちに
不誠実で、相手に失礼だ」
と言われたときには、
文化の違いを痛感させられました。
180度の違いが出るのは、なぜか?
ヒントは、教育にありました。
そもそも、他人とじょうずに
コミュニケーションをとる能力のことを
英語では「social skills」(ソーシャル・スキル)
と言ったりしますが、
オーストラリアでは、豊かな暮らしを送るうえで
絶対に欠かすことができない
非常に重要なスキルと理解されています。
そのため、こうしたスキルを
幼児期から家庭で磨く方法にかんする
情報が書店やネットであふれていて、
これまで、わたしもそうした情報を
集めてきました。
では、海外の子どもが学ぶ
「ソーシャルスキル」とは、
どんなものなのでしょうか?
ソーシャルスキルを構成する5つの要素
学校や職場、家庭で他人と心地よい関係性を
きずくために必要とされる、
ソーシャルスキル。
平たく言いかえると
「コミュ力」ということになりますが、
一体どんな能力を指すのか、
これでは漠然としすぎていてよく分かりません。
オーストラリアの公的機関の情報や
文献を参照してみると、
「ソーシャルスキル」は、おおむね、
5つのポイントにまとめられるようです。
②他人にたいして共感し、その気持ちを表現する力
③まわりに働きかけて、お互いに協力してものごとに取り組むよう促す力
④自分が正しいと感じることや要望を、臆することなく伝える力
⑤生産的な質問を投げかけ、他人の意見を効果的に聞く力
日本で「コミュニケーション力」と聞くと、
そのコトバだけでなんとなく
わかった気になってしまいがちですが、
あらためて整理された要素をみると、
じつに複合的なポイントから
成り立っていることがわかります。
他人の自尊心をたかめるには?
ソーシャルスキルをかたちづくる
5つのポイントを、
それぞれくわしくみていきましょう。
まず「他人の自尊心をたかめる力」
についてですが、ひらたくいえば、
自分が「自分らしく心地よくいられる」
と感じる状況を、
他人にも作ってあげましょう
ということです。
あなたといっしょにいて、
他人が「心地よい」と感じれば、
その人は、あなたと、もっといっしょに
いたいと思うからです。
そして、そのような状況を作り出せる人は
「他人の自尊心をたかめる力がつよい」
とみなされるのです。
では、そうした力を発揮するには、
どうすればよいでしょうか?
海外の学校や家庭で、
子どもが学ぶ内容の一部をご紹介します。
(Make eye contact with others.)
(Call others by their names.)
(Ask others their opinions.)
(Compliment others’ work.)
(Write notes of thanks when someone does something worthwhile.)
(Share your friends’ excitement when they accomplish something.)
これらはほんの一例ですが、
こうしたささいな心がけの積み重ねが
「相手の自尊心をたかめるのに役立つ」
とされていて、オーストラリアでは、
子どものころからそうした
コミュニケーションをクセづけるよう
教育されています。
そして、これらはじつは
大人の職場コミュニケーションでも
役立つ内容ばかり。
たとえば「上司や部下とのコミュニケーションに
改善の余地がありそう」と感じる人は、
上記のTipsをつかって
「相手の自尊心をもっと高めるには?」
という視点から、
日々の会話をふりかえってみましょう。
シンパシーではなく「エンパシー」
ふたつめは
「他人にたいして共感し、
その気持ちを表現する力」です。
じつは英語には、2種類の「共感」があります。
和英辞典で引いてみると、耳なじみのある
という言葉のほかに、
という言葉もでてきます。
似ていますが、ニュアンスに違いがあります。
Sympathy(シンパシー)は
「かわいそう」という同情の気持ちに
重きが置かれるのに対して、
Empathy(エンパシー)は
「他人がどう感じているかを想像し理解する力」
のことを言い、いわゆる
「思いやりの気持ち」に似ています。
英語では
(他人の靴をはいてみる)」
という面白い表現で言いかえたりもします。
ソーシャルスキルとしてより求められるのは、
この「エンパシー」です。
そもそも感情は、意識的にも、無意識的にも、
わたしたちの日々の行動に
おおきな影響をあたえますが、
オーストラリアでは、学校でも、職場でも、
「感情の影響は大きい」という事実をまず
自覚することが大切な一歩目とされています。
それは
とか
とかいったふうに説明されることが多いようです。
他人を巻き込むために、心がけるべきこと
みっつめは「まわりに働きかけて、
お互いに協力してものごとに
取り組むよう促す力」です。
職場の同僚や学校の友だちと
なにかいっしょに打ち込むとき、
良い関係性を保ちながらものごとを進める
環境をつくるのは欠かせない
スキルのひとつですが、
そのヒントは、家庭や学校で、
子どものころから次のように
教えこまれています。
日本でいえば新卒入社の社員が
学ぶような内容も含まれていますが、
上記は、オーストラリアの小学校高学年から
中高生を対象として書かれた内容。
あらためて驚かされますよね。
このように明文化されたヒントを念頭に
学校行事に取り組むことで、
実践的なソーシャルスキルをはぐくみ、
社会に出てからも他人とうまくつきあう
能力の土台を形づくっているのですね。
自分の意見を言うことは、話を聞くのと同じくらい大切
さて、4番目は、多くの日本人が
苦手とするところかもしれません。
「自分が正しいと感じることや要望を、
臆することなく伝える力」です。
オーストラリアで育った若者に、
つぎのようなことを指摘されたことがあります。
それは多分、人の話を最後まで黙って聞くからだと思う」
相手の話をきちんと聞くことは
大切という認識は、
オーストラリアでも大差ありません。
ただし、彼はこうも付け加えました。
自分の思いを伝えることが大事と教育されている。
相手が何を欲しているかは、たしかに想像はできても、
本当のところは聞いてみないと分からない。
子どものころから親に『自分の気持ちを伝えないと、
誰もあなたにかまってくれないし、気にしてくれないよ』
と口酸っぱく言われてきた」
このことから分かるのは、
生まれた国にかかわらず、
人は「主張する力」を生まれつき
もっているわけではない
ということです。
そしてそれは、
学びによって磨くことができるということです。
日本では、ときに主張することそのものが
「和を乱す」と敬遠されることがありますが、
自分の気持ちを正直に表現することは、
悪いことではありません。
むしろ、自分の目標に
かなう状況をたぐり寄せたり、
不安になる環境から自分を守ったりするうえで、
自分の意見を伝えることは
不可欠な場面もあるでしょう。
問題は、相手を攻撃するような
言い方をしてしまったり、
相手の権利を否定しながら自分の権利だけを
主張するような方法、
つまり「伝え方」にあるように感じます。
もし「伝え方」を磨くことに関心がある方は、
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おすすめです。
「聞くこと」で、相手との距離を縮める
さて、ソーシャルスキルの最後は
「生産的な質問を投げかけ、
他人の意見を効果的に聞く力」です。
どの場面でも共通して言えることですが、
相手に対して
「あなたの話に興味をもっていますよ」
という意思表示をすることが、
スタートラインです。
そのうえで、相手の話を
受け身になってひたすら聞くのではなく、
相手が伝えたい本質や、
その背景にある感情はどのようなものか?
とつねに自分に問いかけながら
聞くのがポイント。
相手の話を自分なりの言葉で言いかえることで、
その理解が合っているかを確認しながら
コミュニケーションを進めていきます。
この手法は、英語では
と呼ばれています。
最近、特にビジネス分野で注目を集めていて、
本音を言いづらい関係にある上司vs部下の
コミュニケーションで
部下の本音を引き出したり、
積極的に意見することが苦手な社員の考えを
引き出すのに役立つとされています。
じつはこの方法、感情的な相手とのやり取りにも
効果を発揮するとされています。
オーストラリアの一部の小中学校では、
感情をコントロールするために、
アクティブ・リスニングが教えられているそうです。
それによると、ポイントは2つです。
たとえば、
のように、聞き手が、
「感情」と「理由」のふたつの要素を
セットで盛り込んだ形で応答することで、
相手には
「自分の話を理解しようとしてくれている」
という意思が伝わり、相手の感情的な発言を
コントロールすることに役立つというのです。
これらは職場コミュニケーションでも、
子育てのコミュニケーションでも、
大いに役立つはずです。
さいごに
さて、今回は、
海外のコミュニケーション教育について
ご紹介しました。
日本では、企業が新卒者に求める能力の1位が
「コミュニケーションスキル」という状況が
10年以上続いています。
子どもの発育時から体系的に
コミュニケーションの方法をまなぶ場が
提供されるオーストラリアのように、
日本でもまた、子どもたちが社会に出る
一歩前の学校教育で、「知識偏重」ではなく、
「生きたソーシャルスキル」をまなぶ
機会を増やすことが求められていると
言えるかもしれません。
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「伝え方研究所」編集部
すぎなおき新聞社で首相の番記者などを経験したのち、伝え方研究所の立ち上げにジョイン。研究所がめざすコミュニケーション力のベースアップを支援している。趣味は、スナップ旅。
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