【「マジメ」を「楽しく」伝えるコツ】発見!異文化コミュニケーション#009

【「マジメ」を「楽しく」伝えるコツ】発見!異文化コミュニケーション#009

こんにちは!

 

オーストラリアで生活している、

伝え方研究所の杉です。

 

この連載では、海外でみつけた

伝え方や文化のちがいをつづっています。

 

今回のテーマは、

「マジメな内容を、

いかにワクワク感をもって伝えるか?」

という伝え方のコツについてです。

 

 

じつは先日、シドニーにある

歴史博物館に行ってきました。

 

ここは歴史博物館なのに、

なんと展示物の脇によくある、

細かい字の説明文が見当たらないのです。

 

その代わりに、来場者が「時代の空気」を

体験できるような仕掛けがたくさん。

 

建物をあとにした私の心に残ったのは、

 

「伝え方ひとつで、こんなにも楽しい空間を
つくることができるのか!」
「そもそも、『むずかしそう』な歴史博物館で
『楽しい』と感じるなんて!」

という新鮮なおどろきでした。

 

 

伝え方の工夫のひとつひとつに

共通していたのは、

 

「せっかく足を運んできてくれた人たちに、

どうやって充実した時間をおくってもらうか?」

 

という伝え手(デザイナー)の

大切な問いかけです。

 

 

これは博物館のような特定の場面だけでなく、

「ややこしい内容や一見むずかしそうな内容を、

一般の人に楽しく伝える

体験デザインのヒントになる!」

と感じました。

 

そこで今回は、この博物館を題材に、

伝え方を楽しくする考え方をご紹介します。

 

 

日本の歴史博物館でありがちな「伝え方」

 

そもそも「歴史博物館」ときいて、

みなさんはどんな空間を

イメージするでしょうか?

 

いくつかの歴史博物館に

足を運んだことがある私にとっての印象は、

「歴史を学ばせていただく場所」

という、少しおごそかなイメージ。

 

来場者はあくまで情報の「受け手」であり、

こうした博物館に共通しているのは、

伝え手→受け手への「情報の一方通行」です。

 

決められた順路をすすみ、

時間をかけて細かい字の説明文を読む。

情報のインプット重視で、

まるでむかしの歴史の授業のようです。

 

設計者のほんとうの意図はわかりませんが、

すくなくとも私がそう感じた歴史博物館は、

ひとつやふたつではありません。

 

 

建物をあとにするときに

残る感想としてよくあるのは、

 

「私の理解力がおよばなかった。ごめんなさい・・・・・・」
「なんだか疲れてしまった・・・・・・」

 

という落ちこぼれのような気持ちですが、

同じものを見て「めちゃくちゃ楽しい!」と

感じる人は一定数いますから、

それはあくまでも私の

不勉強のせいに他なりません。

 

・・・・・・と、考えていました。

 

とあるシドニーの歴史博物館を見るまでは——。

 

 

「伝え方」に対する考え方が180度ちがうシドニー歴博

 

私が訪れたのは、シドニーの中心部にある

「ハイド・パーク・バラックス

(Hyde Park Barracks)」

という建物につくられた歴史博物館です。

 

この建物は、植民地時代の

オーストラリアで移民を収容したり、

裁判所や役所として使われたりしました。

 

いまではユネスコの世界遺産にも

登録されています。

 

そんな建物の入り口でまず手渡されるのは、

スマホのような小さな端末と、ヘッドセット。

 

なんとこれ、来場者の位置を把握していて、

展示物の近くに寄ると、

関連する音声が自動的に再生されるのです。

 

日本でもナレーターが

解説してくれる端末がありますが、

ここで再生される音声は、

解説だけではありません。

 

たとえば、こちらのエリア。

 

遠い海の向こうからシドニーにたどりついた

船乗りたちのみた海をイメージした映像が、

天井から垂れ下がった布に投影され、

来場者を囲むように流れています。

 

 

ヘッドセットから流れてくるのは、

ナレーションのほかに、

 

「ザバーン」「ザザーッ!!」という激しい波の音、
「キュッキュッ」という海鳥の鳴き声、
「ぎぎぎぎぎ・・・・・・」という木でできた船がきしむ音、
「おーい!!」「わあああああ!!」という乗員たちの叫び声——。

 

そう、まるで自分がその時代の、

その場所に居合わせたかのような

体験ができるのです。

 

そこには、びっしりと書かれた

説明文はありません。

 

あるのは、海の映像を映し出すスクリーンだけ。

 

ですが、あまりの臨場感に、

「なにが起きたの?」「もっと知りたい!」と、

一瞬で引き込まれてしまいました。

 

同じ「歴史」を、ガラスの奥の静かな展示物と

細かい文字で伝えることもできれば、

音と映像で、臨場感たっぷりに

伝えることもできる。

 

この歴史博物館をデザインした人たちの間に

 

「来場者にワクワク楽しんでもらうには、
どう伝えたら良い?」

 

という問いが共有されていたことは、

間違いありません。

 

 

伝え方を考えるとき、「主役」はだれか?を問いかけたい

 

ほかにも、建物に収容された人たちが

寝泊まりしたとされる部屋に足を踏み入れると、

あちらこちらで人が話すヒソヒソ声が流れたり、

 

 

思い出を語る人びとの

等身大の映像パネルの前に行くと、

その人の肉声が流れたりします。

 

 

映像パネルは、まるで彼らが本当に

自分に語りかけているかのような

錯覚さえおぼえる精巧なつくりで、

本当におどろかされました。

 

(写真:パネルの前に誰もいないときは、

パネルのなかの人も黙っている)

 

また、ガラスの奥にしまわれた

展示物だけでなく、手で触れられる現物や

レプリカが非常に多いのも印象的でした。

 

 

こうした「直感的な伝え方」を

徹底した結果と言えるかもしれません。

あたりを見渡すと、とにかく食い入るように

展示物を見る小さな子どもが多いのです。

 

(写真:手前の女の子が手にしている端末は、

音声解説のナレーションの

スクリプトを表示している)

 

「百聞は一見にしかず」

という作りに徹したデザインなので、

大人だけではなく子どもにも

わかりやすいのですね。

 

そして、そうしたコンテンツを

ひととおり見たあとに私が感じたのは、

「来場者ひとりひとりが主人公である」

というメッセージです。

 

まるで歴史の冒険の旅に

出かけたような空間は、

これまで私が各地の歴史博物館で感じてきた

「学ばせていただく学校のような場所」

というイメージとはかけはなれたものでした。

 

 

伝え手のUX感度を高めるために

 

サービスのトレンドは、物質的な「モノ」消費から、

体験を求める「コト」消費へ移ろいつつある——

と言われはじめてから、

かなりの時間がたちました。

 

そうしたなか、サービスの受け手が

得られる体験すべてを表す用語として、

「UX(ユーザーエクスペリエンス)」

という概念をよく耳にするようになりました。

 

これは、そのサービスと触れた体験すべて

総合した満足度をはかる際に、

よく使われるコンセプトです。

 

 

たとえば「情報を伝える」という文脈では、

 

「わかりやすかった」
「聞いてよかった」
「またその情報に触れたい」

 

というように、ユーザーの満足度が高いほど、

UXはうまく機能したということになります。

 

シドニーの歴史博物館から学べることは、

同じ「歴史」という難しそうな

内容を伝えるにしても、

伝え方を工夫することで、ユーザーの満足度を

思いきり高めることができるということです。

 

 

そこには、「良い伝え方」を考えるうえで

有効なポイントがたくさん隠れていますが、

今回は、欠かせないポイントを

3つに絞ってまとめたいと思います。

 

 

[ポイント1]相手はだれか?
[ポイント2]相手が好むものと嫌うものを想像する
[ポイント3]効果的なメディアを考える

 

まず[ポイント1]ですが、

伝える相手が定まらない状態では、

決して良いコミュニケーションは生まれません。

 

たとえば歴史に関心のある人にだけ

伝える場合は、非常にマニアックな情報を

羅列するほうが望ましいでしょう。

 

一方で、もともとは関心がなかった人にも

関心をもってもらう狙いであれば、

「なんだか難しそう」と思われないような

工夫をしなければなりません。

 

また、伝える相手は子どもなのか、

大人なのか、日本人なのか、外国人なのか

といった属性も重要です。

つづいて、どういった層に

伝えるかを定めたうえで、

具体的に相手が求めている情報は、

どのようなものか。

 

それを形にするためには、

[ポイント2]で示すように、

「相手が好むものと嫌うもの」という観点から

情報を整理することが有効です。

 

【文字情報は・・・・・・】

属性

やさしい
日本語

長い
文章

日本語
のみ表示

短い
文章

子ども

好き

嫌い

——

好き

大人

——

嫌い

——

好き

外国人

好き

嫌い

嫌い

好き

 

こうした表をもとにして考えれば、

重視するターゲットにおうじた

伝え方が整理しやすくなります。

 

 

最後に、[ポイント3]として、

それらの情報をもっとも効果的に伝える

メディアはなにか?という点も

考えてみることをオススメします。

 

たとえば、道案内の場面では、

文字で伝えるよりも図で伝えた方が

圧倒的に分かりやすいように、

文字、絵、グラフ、映像、音声など、

さまざまなメディアのなかから

最適なものを選ぶ視点をもっておいて、

損はありません。

 

 

 

おわりに

 

さて、今回は、シドニーの歴史博物館を題材に、

のぞましい「伝え方」を考える

ヒントをご紹介しました。

 

インターネットで情報が

洪水のように氾濫するいま、

むかしと比べて、あらゆる情報を家にいながら

手にいれられるようになりました。

 

その結果、あえてその場所に足を運ばなくても、

たいていのことは知ることができてしまう

という考えが、広まっています。

 

そうしたなかで、

「あえてその場に来なければ

得られない情報はなにか?」

という問いも、

日に日に大切さを増しているように思います。

 

今回のケースで言えば、博物館に来たからこそ、

音で、映像で、触覚で、

歴史を「体験」することができる

「伝え方」の工夫そのものが、

お客さんを引きつけていると言えそうです。

 

そして、そこから得られる学びは、

効果的な「伝え方」を考えるとき、

情報を伝えられる側が「自分の話」として

受け止めやすいように情報を

デザインすることが、何よりも大切ということ。

 

「その場の主役はだれなのか?」

そして、

 

「主役にとって、もっと響く伝え方はないか?」
 

これらの問いを、

つねに忘れないようにしたいですね。

一覧にもどる