ロシアがウクライナへの侵攻をはじめてから、3日で1週間がたちました。
ロシア軍の攻撃は各地でさらに激しくなり、ウクライナ市民の犠牲は増えつづけています。
そんななか、市民の精神的な支えとなっているのが、ゼレンスキー大統領です。
連日、国内外にむけて力強いコトバを発し、人々を勇気づけています。
軍事力や国土の広さは、ロシアより小さなウクライナ。
一方で、国際社会からの支持や共感は、ウクライナが大きくリードしています。
(ゼレンスキー大統領のFacebookより)
「政治は言葉」と言われます。
ウクライナの大統領が、なぜここまで大きな支持を得ているのか。
そのコトバをくわしく見てみると、伝える内容だけでなく、「伝え方」も、よく練られていることがわかります。
そこで今回は、ウクライナのゼレンスキー大統領がこれまでに語ったコトバを、伝え方の視点から分析。巧みな伝え方のポイントをご紹介します。
練りに練られた、コトバの数々
海外メディアを中心に、ゼレンスキー大統領の印象的なコトバに注目する報道がふえています。
たとえば、このコトバです。
それによって誰が一番犠牲になるだろう? 人々だ。
誰が最も戦争を望まないだろう? 人々だ。
誰が戦争を止められるか? 人々だ。
しかし、あなたたちの間にそのような人々はいるだろうか?
私は『いる』と確信している」
緊迫感がつたわる切実な訴えです。
このコトバは、2月24日、ロシア国民に向けて投稿した動画のなかで語られました。
プーチン大統領に電話協議をもとめたものの反応がなく、戦争を止められるのはロシア人であるあなたたちです、と語りかける内容でした。
ウクライナの母語ではなく、ロシア語で語りかけたところにも、「なんとしても伝えたい」との気迫を感じます。
それに加え、ある工夫によって、より印象が深まる伝え方になっています。
それは、「人々だ」という短い断定のコトバを、3回もくり返していること。
リピートすることによって、コトバが頭のなかに残りやすくなるのです。
(ゼレンスキー大統領のビデオメッセージより)
また、25日には、キエフにある大統領府の屋外で自撮りした動画で、次のように語りました。
「私たちは全員、自分たちの独立と国を守る」
大統領には、亡命する選択もあったはずです。
ですが、彼はそうしませんでした。ロシア軍の「第1の標的」にされながらも、国内にとどまっています。
自分の国を、市民といっしょに守る姿勢をはっきりと示したこのコトバは、とても説得力があると受けとめられました。
(ゼレンスキー大統領が大統領府の屋外で自撮りしたビデオメッセージより)
さらに、彼が国外に逃げるようアメリカから提案された際に語ったとされる次のコトバが、ネットで大きな話題となりました。
このコトバが「彼の姿勢を象徴するもの」として世界中に拡散したのは、やはり強いインパクトを感じさせるからにほかなりません。
伝え方の視点で言えば、ここにもちょっとした秘密があります。
「乗り物」、つまり、亡命する手段に対して、「弾薬」という正反対のコトバが入っているのがポイントです。
正反対のコトバが入っていると、聞き手の脳裏には、より強い印象が刻まれるのです。
国にとどまって防衛する姿勢を示す、強いコトバ。
それがひとつのきっかけとなり、それまで2割台に低迷していたウクライナ国内の大統領の支持率は、91%にまで跳ね上がったとも報じられています。
通訳が泣き崩れた……世界中の人の心を動かすコトバ
そして、大統領のコトバは、国籍や国境をこえて、多くの人々の心を動かしています。
2月には、ドイツ人の通訳士が、スピーチの翻訳中に泣きすする一幕があったほか、3月1日のヨーロッパ議会でも、演説の通訳を担当した男性が途中で声をつまらせました。
ヨーロッパ議会の演説で語られたコトバです。
「私たちは自由のために闘っています」
演説後には、会場が総立ちになりました。
(EU加盟申請書の署名式に出席するウクライナのゼレンスキー大統領(中央)ら。ゼレンスキー大統領のフェイスブックより)
さて、いまも侵攻が続いています。
ですが、国際社会の大多数は、ウクライナの側に立っています。
国連総会の緊急特別会合では、ロシア軍が今すぐに撤退するよう求める決議案が採択され、141カ国が賛成しました。(※反対5カ国、棄権35カ国)
平和を祈る世界中の人びとの想いが通じ、1日もはやく事態が収束することを願っています。
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「伝え方研究所」編集部
すぎなおき新聞社で首相の番記者などを経験したのち、伝え方研究所の立ち上げにジョイン。研究所がめざすコミュニケーション力のベースアップを支援している。趣味は、スナップ旅。
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